Alicia McKenzie" Blog › けたたましい機械音が鳴り響く。

けたたましい機械音が鳴り響く。

2021年07月21日

けたたましい機械音が鳴り響く。

「あ! ママだわ。じゃ、ね、悠久。早く戻って来てよ!?」

 萌花が押しかけてきて三十分間、俺は一言も発しなかった。

 いつも、そうだ。

 勝手に押しかけてきて、一人でベラベラと喚いて、帰って行く。

 実家でも持て余された萌花がマンションに戻ったのは、三週間前。俺が楽と再会し、別れを告げられた頃。

 楽に去られた俺は、仕事に没頭した。

 そうでもしなければ、息をすることすら忘れそうだった。

 間宮の家にも帰っていない。

 俺はビルから徒歩五分の場所にあるホテルで寝泊まりしていた。

 毎日、日付が変わるまで働き、ホテルに帰ってビールを飲み、寝る。

 がむしゃらに働いた。

 目的のためなら、倒れようが病気になろうが構わない。



 全ては、明堂貿易をぶっ潰すため――!



 復讐と呼べば格好いいかもしれないが、そんなに意義のあることじゃないのはわかっている。

 ただ、何もせずにはいられなかった。

 自由に、なりたかった。

 俺は受話器を取ると、中東担当部にかけた。

 現地の担当者と綿密な連絡を取り、何としても納期を間に合わせるように指示を出す。

 この積み荷が届けば、明堂貿易を傾かせることが出来る。

 悪魔に魂を売ってでも、この取引だけは成功させなければならない。
「――社長。副社長!」

 就任から三か月が経とうとしているのに、未だになれない呼び方に、俺はハッとした。

 秘書がドアの前に立っている。

「なんですか」と、俺は聞いた。

「藤ヶ谷様と仰る方がいらしていますが」

「藤ヶ谷?」

「はい。藤ヶ谷修平様です」

 ガタンッと勢いよく立ち上がると、キャスター付きの椅子が背後の壁にぶつかった。

「すぐにお通ししてください!」

 楽に、何かあったのかもしれない。

 楽が去った日。

 半日も呆けていた俺は、我に返ると真っ先に藤ヶ谷さんに電話をかけた。

 恥だなんだと言っている場合ではない。

 聞いてどうするかも考えられないまま、楽の居場所を聞いた。が、当然だが教えてもらえなかった。

『楽が自分の意思で明堂さんと別れたのならば、その意思を尊重します』

 何度電話をしても、そうとしか言われなかった。

 その彼が俺に会いに来たということは、楽に関することに違いない。

 背中に汗が滲む。

「突然、すみません」

 そう言って戸口に立った彼は、俺とは打って変わって清々しい表情。

「いえ。あの、楽になにか――」

「――副社長。ただいまお飲み物をお持ちしますので」

 藤ヶ谷さんの背後から秘書がそう言い、俺は言葉を飲み込んだ。背筋を伸ばし、ソファに向けて手を差し出した。

「失礼しました。どうぞお掛けに――」

「――いえ、ここで結構です。顔を合わせてひと言お伝えしたかっただけなので」
「――社長。副社長!」

 就任から三か月が経とうとしているのに、未だになれない呼び方に、俺はハッとした。

 秘書がドアの前に立っている。

「なんですか」と、俺は聞いた。

「藤ヶ谷様と仰る方がいらしていますが」

「藤ヶ谷?」

「はい。藤ヶ谷修平様です」

 ガタンッと勢いよく立ち上がると、キャスター付きの椅子が背後の壁にぶつかった。

「すぐにお通ししてください!」

 楽に、何かあったのかもしれない。

 楽が去った日。

 半日も呆けていた俺は、我に返ると真っ先に藤ヶ谷さんに電話をかけた。

 恥だなんだと言っている場合ではない。

 聞いてどうするかも考えられないまま、楽の居場所を聞いた。が、当然だが教えてもらえなかった。

『楽が自分の意思で明堂さんと別れたのならば、その意思を尊重します』

 何度電話をしても、そうとしか言われなかった。

 その彼が俺に会いに来たということは、楽に関することに違いない。

 背中に汗が滲む。

「突然、すみません」

 そう言って戸口に立った彼は、俺とは打って変わって清々しい表情。

「いえ。あの、楽になにか――」

「――副社長。ただいまお飲み物をお持ちしますので」

 藤ヶ谷さんの背後から秘書がそう言い、俺は言葉を飲み込んだ。背筋を伸ばし、ソファに向けて手を差し出した。

「失礼しました。どうぞお掛けに――」

「――いえ、ここで結構です。顔を合わせてひと言お伝えしたかっただけなので」



Posted by Alicia McKenzie at 00:38│Comments(0)
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